クラフトサケとは。
米から生まれた、自由な酒。
日本酒づくりの技術を土台に、あえて「日本酒」の枠の外へ。米と副原料で醸す新ジャンル「クラフトサケ」の成り立ちを、法律・歴史・世界の潮流・醸造のことばからひもときます。
「クラフトサケ」とは、米と米麹を軸にしながら、ホップ・果実・ハーブといった副原料を自由に取り入れて醸す、新しいジャンルの酒。
日本の酒税法では、「清酒(いわゆる日本酒)」は——米・米麹・水を原料として発酵させ、もろみをこしたもの——と細かく定義されている。さらに、加えてよい副原料は政令で決められた品目に限られ、その重量は米と米麹の合計の半分(50%)を超えてはならない。アルコール分も22度未満。これらをすべて満たして、はじめて「清酒」を名乗れる。
裏を返せば、ホップや果実、ハーブのような定義の外にある副原料を加えたり、もろみをこさずに仕上げたりすると、その酒はもう「清酒(日本酒)」ではなくなる。その多くは、酒税法上「その他の醸造酒」という区分に入る。
つまりクラフトサケは、日本酒づくりの技術を土台にしながら、あえて「日本酒」という枠の外へ踏み出すことで生まれた酒。米と麹だけを濾さずに仕込むどぶろくも、ホップを効かせたホップサケも、果実を絡めた果実サケも、この同じ土俵の上にある。「日本酒ではない」ことが、むしろ自由の源泉になっている。
日本酒・どぶろく・その他の醸造酒。
似ているようで、酒税法上の区分は意外と入り組んでいる。クラフトサケがどこに立っているのか、おもな区分を並べてみる。
同じ「米の酒」でも、もろみをこすか・こさないか、副原料を何をどれだけ加えるかで、区分は変わる。クラフトサケの多くは「その他の醸造酒」だが、果実や糖類の使い方によっては、リキュールや果実酒として届けられることもある。ラベルの分類表示を見比べてみるのも、この酒のおもしろさだ。
「日本酒の枠の外」に、自由があった。
なぜ造り手たちは、わざわざ「日本酒ではない酒」を造るのか。背景には、日本酒(清酒)の製造免許が、新規にはほとんど交付されないという事情がある。
酒税法には、酒税収を守るために「需給の均衡を保つ必要があるときは免許を与えないことができる」という需給調整の仕組みがある。清酒はこの対象で、長らく新規の製造免許が原則として発行されていない。さらに、清酒を造るには年間60キロリットル(一升瓶でおよそ3万本超)という最低製造数量の基準もあり、小さく始めることも難しい。既存の蔵を守るこの仕組みが、結果として新規参入の高い壁になってきた。
そこで近年の造り手は、比較的取得しやすい「その他の醸造酒」の製造免許で参入する道を選んだ。この免許なら、清酒の定義に縛られない発想——副原料を加える、すべてを麹で仕込む、もろみを濾さない——で自由に酒を醸せる。これがクラフトサケというムーブメントの源流になっている。
「どぶろくなら特区で造れるのでは」と思うかもしれない。だが農家民宿などのどぶろく特区は、原則として自分の店で出すぶんに限られ、瓶詰めして全国に売ることはできない。クラフトサケが取る「その他の醸造酒」の免許は、瓶に詰めて全国へ流通させられる点が決定的に違う。だからこそ、各地の蔵の個性が、いまや全国の食卓で楽しめる。
その先駆けとされるのが、2021年に福島県南相馬市小高で立ち上がった haccoba や、秋田県男鹿の 稲とアガベ醸造所。彼らが切り拓いた道を、いま全国の蔵が思い思いのかたちで歩んでいる。
合言葉は、「自由を、醸そう。」
2022年6月27日、6つの醸造所が手を組み「クラフトサケブリュワリー協会」(JAPAN CRAFT SAKE BREWERIES ASSOCIATION)が発足した。掲げるコピーは「自由を、醸そう。」。
設立の目的は、①クラフトサケの醸造所を増やす ②知名度を高める ③日本酒とクラフトサケが共存できる未来をつくる——の3つ。協会は、10年以内に全47都道府県へクラフトサケの醸造所をつくることも目標に掲げている。設立メンバーは WAKAZE・木花之醸造所・haccoba・LIBROM・稲とアガベ・LAGOON BREWERY の6蔵だった。
その後、加盟は少しずつ広がっている。saketto の収録蔵のうち、協会への加盟を一次ソースで確認できているのは次の10蔵。日本酒の伝統と新しい自由が同居する、それぞれの物語は各蔵のページから辿れる。
世界が、SAKEに気づき始めた。
クラフトサケが生まれた背景には、世界的なSAKE人気の高まりもある。日本酒(清酒)の輸出額は伸び続け、日本酒造組合中央会の発表によれば、2023年には約410億円、輸出先は75の国と地域に達した。1リットルあたりの単価も過去最高を更新し、SAKEは「安く、たくさん」から「選んで、味わう」ものへと位置づけを変えつつある。
2024年12月には、日本酒や焼酎などの「伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録された。麹を用いる日本の酒づくりの技術が、世界の宝として認められたのだ。海外でSAKEを醸す蔵も欧米を中心に増えており、米から生まれる酒は静かに国境を越えている。
クラフトサケは、その大きな潮流の中で生まれた「これからの酒」。伝統に深く根ざしながら、まだ誰も見たことのない味へと向かっている。
クラフトサケのラベルや解説には、聞き慣れない醸造用語が並ぶ。代表的なことばを知っておくと、ひと口の味わいの背景が、ぐっと立体的に見えてくる。
米が酒になるまでの、四つの仕事。
クラフトサケの造りは、基本のところで日本酒と変わらない。米を蒸し、麹をつくり、酵母を育て、発酵させる——この四つの仕事の積み重ねだ。違いが出るのは、その先の一手にある。
まず製麹(せいきく)。蒸した米に麹菌を植えつけ、温度と湿度を管理しながら育てる。麹がつくる酵素が、米のデンプンを糖へ変える。ここでどの麹菌を選ぶかが、味の方向を大きく決める。黄麹なら穏やかな甘み、白麹ならクエン酸由来のはっきりした酸——同じ米から、まるで違う酒が生まれる。
次に酒母(しゅぼ)づくり。酵母を安全に増やすための、いわば種の仕込みだ。乳酸を添加して雑菌を抑える速醸、乳酸菌の力を借りる生酛・山廃、そして花酛のように植物の力を借りる古い手法もある。
そしてもろみの発酵。ここでクラフトサケは大きく分岐する。副原料——ホップ、果実、茶葉、ボタニカル——を、どの段階で、どれだけ入れるか。仕込みの最初から一緒に発酵させれば果実味が酒に溶け込み、発酵の後半に加えれば香りが立つ。ビールのドライホッピングを応用した造り手もいる。
最後が搾るか、搾らないか。搾れば澄んだ酒に、搾らなければどぶろくになる。この一手が、法律上の区分までも決めてしまう。同じ四つの仕事を経ながら、最後の選択で酒の名前が変わる——クラフトサケの自由は、この工程の一つひとつに宿っている。
加えて、火入れするかどうかという選択もある。加熱して酵母の働きを止めれば味が安定し、常温での流通もできる。止めなければ瓶の中で発酵が続き、届いたあとも味が動いていく。安定を取るか、変化を取るか——ここにも造り手の考えが出る。要冷蔵の生酒が多いのは、多くのクラフトサケが後者を選んでいるからだ。
なぜ、この価格なのか。
クラフトサケを手に取ると、四合瓶で2,000円台が中心、造りに手をかけた一本は5,000円を超えることもある。スーパーの棚に並ぶ酒に慣れていると、少し高く感じるかもしれない。その理由は、造りの構造そのものにある。
ひとつは仕込みの規模だ。大手の蔵が一度に大きなタンクで仕込むのに対し、クラフトサケの多くは小さな仕込みを重ねる。同じ手間をかけても、生まれる本数がまるで違う。一本あたりが背負うコストは、どうしても大きくなる。
ふたつめは副原料。ホップ、果実、茶葉、ハーブ——米以外の原料は、それ自体に相応の価格がある。しかも農産物である以上、その年の出来に左右される。地元の農家と組んで少量を仕入れる造りなら、なおさらだ。
みっつめは流通の形。要冷蔵の生酒はクール便が前提になる。輸送にも保管にもコストがかかり、そのぶん価格に乗る。ラベルの数字は、そのまま造りの選択の記録だと思うと、見え方が変わってくる。買える場所ごとの違いはどこで買える?にまとめている。
本サイトに掲載している価格は、各蔵の公式サイト・公式オンラインショップで確認した時点のものです。確認日を併記していますが、ロットや年度で改定されることがあります。購入時は各販売ページで最新の価格をご確認ください。
177本を並べて、見えたこと。
クラフトサケは「自由な酒」と語られる。だが自由とは具体的に何を指すのか。saketto が収録する177銘柄を実際に集計してみると、その輪郭が数字になって現れる。
まず副原料の表記は120通り。ホップ、果実、茶葉、ボタニカル、出汁、ホエー、カカオ——177本のなかに、120通りの「米以外」が記録されている。およそ1.5本に1種類の割合で新しい素材が登場している計算だ。日本酒が米・米麹・水という三つの原料で千年以上の表現を積み上げてきたことを思えば、この散らばり方は異様ですらある。
分類してみると、米と麹だけで醸すものが47銘柄ともっとも多い。次いで果実が35、アガベ・蜂蜜・出汁などの特殊な副原料が31、ホップが27、茶葉・ハーブが17、大麦麹・蕎麦麹・発芽玄米といった穀物や特殊な麹が12と続く(副原料を複数使う銘柄は主たるものに寄せて分類。副原料が公式非開示の8銘柄は除く)。「自由な酒」の三分の一近くが、じつは何も足していない——この事実は、クラフトサケが副原料の物珍しさだけで成り立っているわけではないことを示している。搾らないという選択そのものが、すでに表現になっているのだ。
価格は中央値2,750円。判明している154銘柄のうち83銘柄が2,000円台に集まり、3,000〜4,999円が37銘柄。5,000円を超えるものは15銘柄にとどまる。大半は、日常の食卓に届く価格帯にある。度数は、ノンアルコールの甘酒を除くと4度から18度まで幅があり、中央値は13度。容量は720mlが55銘柄、500mlが66銘柄で、四合瓶と、その少し小さいサイズが主流だ。
これらの数字が語るのは、クラフトサケが「珍しい実験酒」から「選べる日常の酒」へ移りつつあるということだろう。120通りの素材という振れ幅を持ちながら、価格と容量はきわめて現実的な範囲に収まっている。
クラフトサケと日本酒は、何が違うのですか?
原料も造りも近いのですが、酒税法上の区分が違います。日本酒(清酒)は「米・米こうじ・水などを原料として発酵させ、こしたもの」と定められており、この定義から外れる酒は「その他の醸造酒」などに分類されます。もろみをこさない、あるいは米以外の副原料を使う——クラフトサケの多くはこの枠で造られています。味の優劣ではなく、あくまで制度上の線引きです。
「クラフトサケ」は誰が決めた呼び名ですか?
造り手たち自身です。2022年に発足したクラフトサケブリュワリー協会が、この呼称を掲げました。法律上の用語ではないため、蔵によっては別の言い方をすることもあります。新しい蔵の記事では、この呼び名が生まれた背景にも触れています。
度数はどのくらいですか?
銘柄によって幅が大きく、saketto に収録している範囲では4度前後から18度程度まであります。低アルコールを狙って設計されたものから、原酒に近い濃厚なタイプまでさまざまです。ラベルの表示を確認してください。
クラフトサケはどこで買えるのですか?
蔵の公式オンラインショップ、通販モール、ふるさと納税、醸造所併設の店舗——大きく4つの入口があります。少量生産のため、スーパーや一般的な酒販店では見かけないことが多いです。詳しくはどこで買える?にまとめました。
4つの軸から、次の一本へ。
クラフトサケの面白さは、その多様さにある。saketto では、28の蔵と177の銘柄を、4つの軸から横断的に探せる。気になる入り口から、次に出会う一本を見つけてほしい。