SAKETTO DEEP — NEW BREWERIES
DEEP / 深く味わう

新しい蔵が、
街の中に立つ。

駅のエキナカ、商店街のアーケード、団地の一角。酒蔵の常識が、この5年で書き換わった。

酒蔵が立つはずのなかった場所に、いま次々と醸造所が生まれている。saketto が収録する蔵の開業年をならべると、その速さがはっきり見えてくる。

収録28蔵のうち、2024年以降に立ち上がった蔵が15。半数以上が、ここ2〜3年に集中している計算になる。これは一過性のブームというより、酒づくりの入口が構造的に変わったということだ

閉じた扉の、横にあった扉

理由の中心にあるのは免許制度だ。清酒の新規免許がほぼ下りない一方、「その他の醸造酒」には新設の道が残されている——この一点の差が、参入の地図を書き換えた。制度の詳しい仕組みはクラフトサケとは、こさない造りについてはどぶろくとはで扱っている。

ここで見たいのは、その扉をくぐった蔵がどこに立ったかだ。清酒の枠を出るという選択は、造りの自由と引き換えに、既存の酒蔵が積み上げてきた前提——広い敷地、大きなタンク、長い歴史——からも自由になることを意味した。身軽になった蔵は、これまで酒が生まれるはずのなかった場所へ降りていく

その他の醸造酒免許OTHER BREWED LICENSE
清酒の製造免許は新規取得がきわめて困難だが、こちらは条件を満たせば新設の道がある。新しい蔵の多くがこの免許で立ち上がる。
マイクロ醸造所MICRO BREWERY
小さな仕込みを重ねる醸造所。設備がコンパクトなぶん、街なかや駅構内にも設置できる。
委託醸造CONTRACT BREWING
自前の設備を持つ前に、既存の蔵に委託して醸す方式。ブランドを先に立ち上げ、のちに自社醸造へ移る蔵もある。
クラフトサケブリュワリー協会ASSOCIATION
2022年に発足した造り手の団体。「クラフトサケ」という呼称そのものを、造り手たちが定義した。

酒蔵は、街の中へ。

設備が小さくて済むということは、立地の自由度が上がるということでもある。新しい蔵のリストを見ると、従来の酒蔵の常識からすると意外な場所が並ぶ。

宮城のFermenteriaは仙台駅のエキナカで、東京の東京駅酒造場は東京駅のエキナカで醸す。沖縄のNOMU醸造所はコザ一番街の商店街に、大阪の足立農醸は高槻の団地内に立つ。平和どぶろく難波醸造所が構えるのは、大阪タカシマヤの地下だ。造る場所と飲む場所が同じ——搾りたてをその場で出すという、これまでできなかった体験が成立している。

いっぽうで、地域に根ざす動きも強い。福岡県福智町の天郷醸造所は町のクラフトサケ醸造者募集をきっかけに生まれ、佐渡島のSAKENOVA BREWERY、新潟県柏崎市の集落に立つ弥栄醸造のように、土地の米と風景を前提にした蔵も続々と現れている。

2020年からの、5年間

ここからは、生まれた順に並べ直してみる。世代の輪郭がはっきりする。滋賀のハッピー太郎醸造所(2017年)や埼玉のやまね酒造(2019年)のような先行例はあるものの、収録蔵の多くは2020年以降に集まっている。なかでも2020〜2021年には、いまジャンルを牽引する蔵が集中して生まれた。福島・小高のhaccoba、秋田・男鹿の稲とアガベ、新潟・福島潟のLAGOON BREWERY、福岡のLIBROM、東京・浅草の木花之醸造所——第一世代というべき蔵たちだ。

2022〜2023年は、その背中を追う世代。ぷくぷく醸造、岩手・遠野のnondo、岩手・紫波の平六醸造、長崎・出島のでじま芳扇堂。そして2024年以降になると、大手の参入(神戸のHAKUTSURU SAKE CRAFT)や、駅・商店街・離島といった新しい立地が一気に増える。

この5年で、クラフトサケは「一部の先進的な蔵の試み」から「毎年新しい蔵が生まれる領域」へ変わった。saketto が横断検索のデータベースをつくっているのも、追いかけきれない速さで銘柄が増えているからにほかならない。

16の都道府県に、散らばっている

saketto 収録の28蔵を地域で数えると、分布に特徴が見えてくる。東北8、関東7、関西5、九州4、中部3、沖縄1。日本酒どころに偏るでもなく、都市に集まるでもなく、全国に薄く広がっているのがクラフトサケの特徴だ。

複数の蔵がある都道府県は6つ。東京都・岩手県が各4蔵、新潟県・福岡県が各3蔵、福島県・大阪府が各2蔵で、残りは1県1蔵。全体で16の都道府県にまたがっている計算になる。まだ空白の県のほうが多いということでもあり、この地図はこれから埋まっていく余地が大きい。

興味深いのは、既存の日本酒の勢力図とずれていることだ。酒どころとして知られる新潟に3蔵あるのは順当だが、東京に4蔵というのは従来の酒蔵の分布では考えにくい。駅ナカや商店街に置ける小さな設備だからこそ、都心にも蔵が立つ。沖縄にクラフトサケの蔵があるのも、泡盛の島という前提を思えば新しい動きだ。

そして福島に2蔵。どちらも震災の被害を受けた南相馬市小高区にある。地域の再生と酒づくりが結びついた例で、ここから始まった蔵がジャンル全体を牽引してきた。地図の上の点は、それぞれに理由を持って打たれている。

ばらばらではなく、ジャンルとして

個々の蔵が別々に試行錯誤していた段階から、ひとつのジャンルとして名乗る段階へ——その転換点になったのがクラフトサケブリュワリー協会の発足だ。「クラフトサケ」という呼び名そのものが、造り手たち自身の手で定義されたことに意味がある。

saketto が収録する28蔵のうち、協会に加盟しているのは10蔵。加盟していない蔵のほうが多いのは、この領域がまだ広がり続けている証拠でもある。大手酒造の実験的ブランドから、地域おこしとして始まった蔵、駅のエキナカに立つ小さな醸造所まで——出自も規模も動機もばらばらな造り手が、「米で自由に醸す」という一点でゆるやかにつながっている。

思い立ってから、一本目まで。

新しい蔵はどうやって生まれるのか。収録蔵の歩みをたどると、いくつか共通する道筋が見えてくる。

多くの造り手は、まずどこかで酒造りを学ぶ。既存の酒蔵で働く人もいれば、醸造を学べる学校に通う人、先行するクラフトサケの蔵で修業する人もいる。実際、先発の蔵で経験を積んだ人が独立して次の蔵を立ち上げる——という連鎖が、この数年で起きている。ジャンルそのものが人を育てはじめているということだ。

次が免許と場所。「その他の醸造酒」の免許を取り、設備を置ける物件を探す。ここで自治体が関わる例もある。福岡県福智町のように醸造者を公募した町があり、ふるさと納税の返礼品として販路が用意される例もある。酒蔵の誘致を地域おこしに結びつける動きが出てきている

設備が整うまでのあいだ、既存の蔵に委託して醸す造り手もいる。京都のLINNÉは複数の蔵に委託して銘柄を世に出し、新潟の弥栄醸造も阿部酒造への委託から始まった。大阪の足立農醸の「KOYOI」も委託醸造だ。回り道に見えて、資金と経験の両方を確保できる現実的な進め方である。

そして一本目が出る。多くの場合、それは蔵の店頭と公式オンラインショップだけで売られる。ここから評判が広がり、取扱う酒販店が増え、やがて通販モールにも並ぶようになる。saketto に載っている蔵は、みなこの道を通ってきた

この道のりを知っていると、新しい蔵の酒が「どこにも売っていない」理由も腑に落ちる。まだ流通に乗る段階まで来ていないだけで、隠しているわけでも品薄商法でもない。公式サイトを直接訪ねれば、たいてい買える。できたばかりの蔵ほど、造り手との距離が近い——それは新しさの不便ではなく、この時期にしか味わえない特権かもしれない。

そしてこの近さは、長くは続かない。蔵が育ち、流通が広がれば、造り手は忙しくなる。いま公式サイトのメッセージに直接返信をくれる造り手も、数年後には同じようにはいかないだろう。ジャンルが立ち上がっていく途中に居合わせている——飲み手にとって、それ自体がひとつの体験だと言っていい。

もっとも、すべての蔵が続くとは限らない。小さな醸造所の経営は楽ではなく、設備投資も人手も重くのしかかる。いま飲める一本が、来年も同じように買えるとは限らない。だからこそ、気になる蔵があるなら早めに一本。飲むことが、いちばん直接的な応援になる。

日本で生まれて、世界へ

新しい蔵の動きは、国内だけにとどまっていない。立ち上がってまだ数年の蔵が、すでに海を渡っている。これは従来の酒蔵の歩みからすると、異例の速さだ。

福島・小高のhaccobaは2025年に欧米への進出を開始した。米国ポートランドの「Sunflower Sake」、アムステルダムの「Restaurant Flore」、そしてベルリンの「Enter Sake Berlin」——アジア圏でもタイ、香港、シンガポール、台湾へ輸出している。創業2021年の蔵が、四年ほどで欧米の食卓に並んでいる

福岡のLIBROMはさらに踏み込んだ。2023年にイタリア法人「LIBROM ITALY」を設立し、バルバレスコ地区で現地の米を使ったテスト醸造に取り組んでいる。日本の酒を輸出するのではなく、その土地の米でその土地の酒を醸す——ワインの産地でクラフトサケを造るという発想は、この酒が「日本の酒」という枠すら越えはじめていることを示している。

岩手・遠野のnondoのように、世界最高峰のレストランに採用される例もある。そして新潟・佐渡のSAKENOVA BREWERYは2025年、日本アカデミー賞のアフターパーティーで唯一の日本酒ブランドとして提供された。約500名が口にした計算になる。

なぜこれほど早く外へ出られるのか。ひとつには、クラフトサケが「日本酒」という既存カテゴリの外にあるからだろう。海外の飲み手にとって、これは比較対象のない新しい飲みものだ。ホップや果実を使った造りは、ワインやクラフトビールに親しんだ舌にも入りやすい。国内で「規格外」だったことが、国外では「新しい」に変わる——制度の外に出た酒が、そのまま国境の外へ出ていく構図になっている。

まだ、増えつづける

2026年に入っても新しい蔵の名前は増えている。茨城の土浦醸造のように準備段階の蔵もあり、この記事が古びるのは速い。saketto はそのつど一次ソースを確認して収録を更新している。

新しい蔵の酒は、まず蔵の公式オンラインショップや店頭に出ることが多い。通販モールに並ぶのは、そのあとになる。気になる蔵ができたら、公式サイトとSNSを直接追うのがいちばん早い。買い方のコツはどこで買える?にまとめている。

クラフトサケの蔵は、全国にいくつありますか?

明確な統計はありません。協会加盟蔵のほか、加盟せずに醸す蔵、大手酒造の実験ブランド、準備中の蔵まで含めると、線の引き方で数が変わるためです。saketto では一次ソースで確認できた蔵を収録しており、現在28蔵を掲載しています。

新しい蔵の酒は、品質が心配ではないですか?

多くの造り手は、既存の酒蔵での修業歴や醸造の専門教育を経て独立しています。また設備が小さいぶん一仕込みごとに細かく設計を変えられるため、むしろ攻めた造りに挑戦しやすいという利点があります。

どの蔵から飲めばいいですか?

まずは入手しやすい第一世代の定番から入り、気に入った方向性(ホップ系・果実系・どぶろく系)を決めてから新しい蔵へ広げるのがおすすめです。タイプ別の入口はおすすめ12選にまとめています。

新しい蔵が生まれる背景を知ると、一本の酒の後ろにある選択が見えてくる。ジャンルの成り立ちそのものも、あわせてどうぞ。

楽しむ前に

20歳未満の飲酒は法律で禁じられています。 飲酒運転は法律で禁止されています。妊娠中・授乳期の飲酒はお控えください。適量を守り、自分のペースでお楽しみください。

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